2015年2月22日、京都大学時計台百周年記念館で「考える大人になる—第4回教育のためのTOCシンポジウム」が約150名の参加で開催されました。2011年8月の日本での初めての国際資格認定プログラム(4日間)以来の、日本でのTOCfE[TOC for Education]の広がりが実感できる、すばらしい学びと交流の場となりました。発表者、参加者のみなさま、ありがとうございました。

教育のためのTOC 第4回シンポジウム

シンポジウムは、教育のためのTOC日本支部の若林靖永理事長によって、「4日間の国際認定資格プログラムを学んだことのあるみなさんには、
問1 教育のためのTOCがめざすものはなにか
問2 教育のためのTOCを自ら何のために何に活用するか
問3 教育のためのTOCを広げるためにあなたはなにをするのか
について考えて書いてください」という問題提起があり、そしてそうでないみなさんは「今日のシンポジウムをぜひ楽しんでください」という呼びかけでスタートしました。

今回の基調講演は、TOCfEのキャシー・スエルケン代表により、いかにしてTOCfEが生まれたのか、ゴールドラット博士からTOCfEの組織的取り組みを始めるような示唆を得た際に、どのようなATTを作成したのか、というように、TOCfEを広げる上での障害、中間目標をキャシー代表がどのように考えて取り組んできたのかが語られました。そして、その過程で子どもたちがなにを学んだか、さまざまな事例が紹介され、子どもたちの学びに教えられたことを紹介してくれました。

その後は、下記の通り、公募の上選抜された事例12件の発表がありました。

[職場/組織で使うTOCfE]
  • TOCfEを使って日本一の自転車スポーツ大会の受付業務を15倍効率化した話
  • 発達障害の僕が子供たちと関わることによって自信がつき変わる事が出来た
  • 3年目の壁を(ぶち)破る
  • 全国行脚!100名の薬局新人スタッフに20分でATTワークを行った結果と考察
    ~短時間で手法を伝えなければならないジレンマからの脱出~
[学校・教育現場で使うTOCfE]
  • 「Chest Of Secretsをやってみよう」
  • 必勝!児童会選挙!
  • 大学生のためのTOCfE
  • オリンピックへの道 トップアスリートの「勝負勘」をロジックで解き明かす
[家庭・個人で使うTOCfE]
  • “good enough”なブランチを書くには、まずブランチ”もどき”から!
    ~ブランチが書けない原因を解消!~
  • 弟を「寝たきり」から救ったアンビシャス ターゲット ツリー
  • クラウドで家庭のトラブルを解決しました!
  • 明るく前向きに生きるための思考改善法
    ~アスペルガーによる2次障害と向き合う中学生からのメッセージ~

12件の事例発表では、小学生、中学生、障がい者自身がいかにTOCfEを活用して自分の未来を切り拓いたかという発表もありました。まだ文字の読み書きができない幼児でもTOCfEに取り組めるツールの実践についての発表もありました。オリンピック金メダルをめざすための戦略を導く発表もありました。受付業務で問題が発生して大会運営が困難となる状況に対してTOCfEの活用を通じて抜本的な改善策を生み出し、すばらしい成果をあげたという画期的な事例発表もありました。家族・親族が直面した深刻な問題をFEをみんなで共有活用することを通じて新たな展望、新たな解決策を見いだしたという事例発表もありました。また、日常的にブランチを活用しようとするのに、なぜかうまくスムーズにブランチをつくっていくことができないという悩みについて、TOCfEを活用して分析しその原因を明らかにし解決策を提案する発表もありました。

これらの発表を通じて、
①TOCfEは各人が直面した、ビジネスであれ、学校であれ、家庭であれ、問題に対して有効に活用できること
②TOCfEの活用によって新しい知識、解決策を見いだし、新たな希望と挑戦を生んでいること
③人々の善良性が尊重され、活かされるのがTOCfEであること
が示されたと思います。

 

次の企画として「TOCfEに関する質問にキャシーと理事がすべてお答えします。」が岸良理事の司会ですすめられました。質問者は4人。

  • 解決策が複数出てきたときの比較検討や、もっと良い解決策があるのでは
    ということはどう考えたらよいですか
  • 自分が変わるのではなく、大人が変わるということを解決提案にした発表があったが、
    自ら変わることを考える必要があるのではないか
  • TOCというのはいろいろな分野で適用されているようだが、万能なのか
  • TOCfEが考えるツールとして効果的であることを学んだが、教師にとって役立つものはないのか

などの質問が出され、キャシーならびに理事によって回答がありました。
私も自分の持っている考えを積極的に紹介しましたが、質問者の意図や気持ちを理解することを出発点にすえるよう、この企画をもっとよくしていくためには工夫が必要だと感じています。

4人の方の質問はとても重要で考えさせられる質問でしたので、私の考えを紹介したいと思います。
もちろん、これは私個人のアイデアであり、TOCfEはそれぞれが自ら新しい知識を生み出して自分の人生を切り拓くツールですから、ひとつのアイデアとして参考になればと思います。

①「解決策が複数出てきたときの比較検討や、もっと良い解決策があるのではということはどう考えたらよいですか」

解決策が複数出てくることはよくあることです。
基本的には問題を解決し目的(要望)を達成するための解決策ですから、それらが有効に達成できるかどうかがポイントです。事前に明確な評価基準が指定されているのであれば、それに従えばよいと思います。

TOCfEを使って解決策の代替案の比較検討をすすめ、解決策をさらに改善することもできます。
その進め方としては、ブランチを活用します。ある解決策を選択実行した結果、その後なにが起こりうるだろうかという未来を予測するブランチを作成します。すると、

  • 目的は達成するかもしれないけれども、大きなトラブル、災禍をもたらす可能性が高いことが明らかになるかもしれません。
  • 目的を達成しようとすると、大きな障害が立ちふさがってなかなかうまくいきそうもないことが明らかになるかもしれません。
  • 目的を達成するためには、不可欠ないくつかの条件・資源が必要で、その調達が容易ないし困難ということが見えてくるかもしれません。
  • ある解決策の実行により、ほかのより良いことが実現する(副産物)ことが見えてくるかもしれません。

このようにブランチをつくって検討することで、解決策の有効性を具体的に検討することができます。それぞれの解決策のブランチを作成した後で、比較検討すれば、自ずとよりましな解決策が選択できるでしょうし、その解決策がさらに良いものにするためにどこを改善すればよいかが明らかになるでしょう。

②「自分が変わるのではなく、大人が変わるということを解決提案にした発表があったが、自ら変わることを考える必要があるのではないか」

直接的に変えられるのは「自分」であって「相手」を変えることは困難だという見方からすれば、ご意見の通り、「自分が変わる」がとても大事な解決アプローチということになるでしょう。ある場合では、相手のせいにするのではなく、自分が変わることでうまくいくこともあると思います。

しかしながら、「自分を変える」ことがとても困難な場合があります。自分というもののあり方というのはそれぞれの特質であって、自由に変えられるようなものではありません。自分の行為を変えることですら、行為を生み出す自分が「変わらない」ために繰り返し同様の行為を繰り返してしまうということが避けられないことがあります。このような場合は、「自分を変える」以外のアプローチを探求する必要があります。

周り(相手)が変わることで、結果として自分も変わっていくということも、人と人と相互作用の結果、すすんでいくこともあるでしょう。このように、当事者(自分)の課題として取り組んでいく場合においては、「自分が変わる」というアプローチとともに、「自分を変えない」という前提でのアプローチそれぞれが尊重される必要があると思われます。TOCfE は当事者が当事者の意思、知識と経験を通じて新しい知識を生み出して、当事者自身の未来を切り拓かれていくことに価値があるのだと思います。

③「TOCというのはいろいろな分野で適用されているようだが、万能なのか」

万能というのはどういう意味でしょうか?
すべてのことを説明できる知識などというものは原理的にありえません。医学であれ、経済学であれ、とても不完全な知識体系ですが、一歩一歩前進し、それを応用していっています。それぞれの専門の学問を否定して、それにTOCがとって代わるなどということはありえません。

もともと、TOCfEは国語や理科とかの教科教育の内容を明解に説明し、子どもたち自身がそれを理解し活用していくことにつなげるツールです。国語や理科という専門にとって代わるものではないのです。ですから、大学生のみなさんにはぜひ専門の勉学にしっかり取り組んでそれを活かしてほしいと思います。

同時に、国語や理科、医学や経済学というようにさまざまな領域でTOCは活用され知識を生み出すことが可能です。TOCfEは対象や領域によって制限されません。なぜならば、TOCの基本、TOCfEは思考プロセス、考え方のツールですので、さまざまな領域の事象を対象に「考える」ことができ、新しい知識を生み出すことに貢献できるのです。

④「TOCfEが考えるツールとして効果的であることを学んだが、教師にとって役立つものはないのか」

学校教師は指定された教育課程(カリキュラム)や教科書があり、それにもとづいて毎回の授業計画を立てて授業をすすめていきます。

ところが子どもたちにとって授業の内容は自分たちの関心から離れたところにあるため、積極的に学ぶ意欲に乏しく、無理矢理勉強させられるという感じになりがちです。子どもたち自身が自分たちで考え行動する力を身につけることにつながるよう、各科目があるにもかかわらず、十分な授業時間の余裕もないこともあり、子どもたちが考えることを促す授業をすすめることは困難な場合があります。

TOCfEはそもそも、こうした学校教師が直面している問題をいかに解決するか、教科を学ぶこと、考えることを学ぶこと、自分に関連があることを理解し、自分の行動の意思決定に役立てること、を同時に達成するために開発されました。国語や理科といった教科教育や学級活動など生徒指導を実際にすすめる際に、学校教師自らがFEを活用して児童・生徒とともに考える授業を組み立てることを提案しています。
そして、子どもたちは自らTOCfEを活用するように成長していきます。

このようにTOCfEそのものが学校教師のためのツール(もちろん、今回の事例発表にあるように、学校教師、子どもたち以外の人々にとってもとても有用なツールです)です。もしご興味がおありでしたら、ぜひ国際資格認定プログラムにご参加くださるよう希望します。

 

本シンポジウムは最後に、吉田理事による「TOCfE日本支部発展の歴史」の紹介、小路さんによる「ボランティア募集」、そして「クロージング」で終わりました。

参加者からは、

  • TOCがビジネスの分野だけではない部分で生かせる場があるということ。金メダルをとるという壮大な取り組みから、生徒会選挙まで、活動の場が実際に広がっているということ。
  • 小学生低学年や幼児に出来るのだろうか?との疑念がありましたが、実例を聞いて解消されました。(発表した小学生、中学生の理路整然とした話しっぷりにおどろきましたが、これがTOCfEの成果なのだと感じました)
  • 『思いこみ』のこわさというものを再確認させられた。今までどれだけの可能性を自分自身でつぶしてきたのか、また、TOCfEを用いれば今からでも遅くないということを人生の先輩方である人々による講演を聞き、気づかされた。
  • ATT、クラウドなどのTOCfEのツールは”みんなでやる”ということがとても大事であると思う事例発表が多かった。本当に”みんなでやる”ことに、このツールの良さがあるということがわかった。

などの感想がありました。

多くの方が勇気づけられたし、TOCfEを使って自分たちの直面していることに取り組んでみようという意欲を持つようになりました。

TOCfEにフォーカスしないでください。
問題にフォーカスするためにTOCfEを活用してみてください。

次回来年、さらにすばらしい事例発表が集まることを楽しみにしています。

(文責 若林靖永)